シャンパーニュという言葉は、いつしか「ラグジュアリーの象徴」として語られるようになった。華やかなパーティ、煌びやかなボトル、ブランドの名を競う市場。だがその眩さの裏で、静かに真実を見つめ続けてきた造り手がいる。
フォレ・ラミヨン(Follet-Ramillon)。商業的な成功ではなく、誠実な人生の延長としてワイン造りを続ける家族である。
2025年11月に来日した、4代目当主兼醸造責任者のニコラ・フォレ氏に、その想いを存分に語ってもらった。
商業主義とは対極にある、静かな矜持
彼らにとって、シャンパーニュ造りは「仕事」ではない。
それは、土地と家族を守るための生き方そのものだ。市場のトレンドや利益の波に乗ることは、フォレ・ラミヨンにとって目的ではない。
二コラは、彼にとっての「仕事」は世界中で行っているスパークリングワイン造りのコンサルティングであり、生活の糧はそこから得ていると言い切る。
生産量はごく限られ、畑もすべて家族の手によって耕される。彼らが重んじるのは効率ではなく誠実さ。
除草剤や化学肥料に頼らず、土の声に耳を傾け、ブドウの樹がその年のリズムで育つのを待つ。
「売るために造る」のではなく、「納得できたものだけを瓶詰めする」——その姿勢こそ、フォレ・ラミヨンの哲学を象徴している。
ガストロノミーに愛される理由
フォレ・ラミヨンのシャンパーニュは、単なるアペリティフではない。
料理とともにあるべきワインだ。
その骨格、余韻、そして静かな深みは、フランス国内外のレストランで高い評価を受けている。
果実味は繊細で、酸の輪郭が美しい。
熟成由来のブリオッシュ香やミネラルのニュアンスが複雑に重なり、料理の味を包み込む。
それは、泡で華やかさを演出するためのシャンパーニュではなく、皿の上の物語を完成させるためのシャンパーニュ。
名だたるレストランでフォレ・ラミヨンを選ばれる理由はそこにある。
華やかさよりも「食と響き合う静かな力強さ」——それが彼らの真骨頂だ。
テロワールの声を届けるために
フォレ・ラミヨンが拠点とするのは、マルヌ渓谷の小さな村、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区。
この土地は、粘土質と石灰質が入り混じる複雑な土壌構成をもち、ブドウに奥行きとしなやかさを与える。
彼らはテロワールの個性を最大限に引き出すため、過剰な介入を避け、発酵から熟成まで自然のリズムに寄り添う造りを貫く。
樽発酵や長期熟成は、ブドウが自ら語る声を邪魔しないための手段であり、決して技術の誇示ではない。
その結果生まれるシャンパーニュは、香りの層が深く、泡がきめ細かい。
飲み進めるごとに味わいが変化し、時間の経過とともに静かに広がる。
代表的なキュヴェ:
Harmonie Extra Brut(アルモニ エクストラ・ブリュット)
フォレ・ラミヨンの哲学を象徴するキュヴェが「アルモニ」である。その名が示す通り、“Harmonie=調和”を追求した一本であり、ブドウそのものの純度とエレガンスが静かに、しかし確かな存在感をもって表れる。
畑の個性を尊重し、低収量で丁寧に選果されたブドウを使用。過度な樽香や技術的演出に頼ることなく、自然酵母発酵と長期熟成によって繊細なテクスチャーを生み出している。
香りは白い花や洋梨、シトラスに微かなブリオッシュのニュアンスが重なり、口に含むと凛としたミネラルが伸びていく。泡は驚くほどきめ細かく、余韻は静かに、まるで風景が広がるように長く続く。
その名の通りバランスに優れ、ガストロノミーの世界で高い評価を受けるのも納得の仕上がりである。牡蠣や帆立貝のカルパッチョ、白身魚のポワレ、シンプルな山羊チーズなど、素材を生かした料理との相性は抜群だ。
静かなる情熱をグラスの中に
フォレ・ラミヨンのシャンパーニュは、派手な演出を必要としない。
ラベルの背後にあるのは、商業主義とは無縁の、家族の生き方と土地への愛。
その一滴には、流行では測れない永続的な価値が宿る。
華やかなシーンに寄り添うよりも、心を静かに満たす時間を与えてくれる。
もし「本物のシャンパーニュとは何か」を探しているなら、フォレ・ラミヨンの泡に耳を傾けてほしい。
そこには、人生そのものを注ぎ込んだ真実の輝きがある。
ニコラ・フォレ氏のインタビュー動画はこちら
https://youtu.be/Iao8JaUJce8
フォレ・ラミヨンのラインナップはこちら
https://cepages-wines.com/collections/champagne-follet-ramillon