【新世代が描くサン・ロマンの未来 - 伝統と革新の交差点】
フランス・ブルゴーニュ地方。その中でもコート・ド・ボーヌの名高い村々に新たな息吹をもたらしているのが、Domaine Arthur Gras(ドメーヌ・アルチュール・グラ)です。名門ワイナリー「Domaine Alain Gras(ドメーヌ・アラン・グラ)」の次世代として誕生したこのドメーヌは、父アラン・グラが築き上げたクラシカルで精緻なスタイルを受け継ぎながらも、よりピュアでモダンな表現を追求しています。伝統の継承者でありながら、未来のブルゴーニュを体現する造り手、それがアルチュール・グラです。
アラン・グラはサン・ロマン村を代表する生産者として知られ、その名はブルゴーニュ・シャルドネの透明感とミネラル感を再評価させた功労者のひとりです。長年にわたり「テロワールの声を正確に伝えるワイン」を信条に、リッチでありながらも緊張感に満ちたスタイルを築いてきました。その一方で、息子のアルチュールは幼い頃から父の仕事を間近で見つめ、ブルゴーニュの風土とブドウ栽培の本質を自然に体得してきました。醸造学校で学んだ後、国内外のドメーヌで経験を積み、2020年代に入り自身の名前を冠した「Domaine Arthur Gras」を立ち上げます。
アルチュールのワインは、一言でいえば「繊細な情熱」に満ちています。父のワインがクラシック音楽のように構築的で完成された美を追求するなら、アルチュールのワインはよりリズミカルで自由なジャズのよう。自然酵母発酵や過度な抽出を避けるアプローチにより、果実の瑞々しさとテクスチャーの柔らかさが際立ちます。熟成には大樽や古樽を中心に用い、木樽のニュアンスを抑えながらも、ブドウの持つエネルギーをそのままボトルに封じ込めています。
特に注目されるのは、サン・ロマンやオーセイ・デュレスといった冷涼なエリアのテロワールを、これまで以上にフレッシュかつ透明に表現している点です。標高の高い畑から生まれるシャルドネは、レモンピールや白い花、湿った石のような香りを放ち、酸と塩味のバランスが秀逸。ピノ・ノワールは赤果実のピュアな果実味に、きめ細かなタンニンとしなやかな余韻が重なり、飲む人の心を静かに揺さぶります。
また、アルチュールは持続可能な栽培にも力を入れており、化学的介入を最小限に抑えたリュット・レゾネ(減農薬農法)を採用。畑では自然の生態系を尊重し、醸造ではできる限り人の手を排した「ナチュラル・プリシジョン(自然でありながら精密)」な哲学を貫いています。これは、彼がブルゴーニュの伝統を重んじながらも、気候変動という新しい現実に真摯に向き合っている証でもあります。
父アランと息子アルチュール - 両者に共通するのは、テロワールへの深い敬意とブルゴーニュの精神。しかし、ワインが語るメッセージは確かに異なります。アラン・グラが「熟成によって完成されるクラシックな美」を象徴するなら、アルチュール・グラは「今この瞬間に感じる生命力」を描き出すアーティスト。親子二代にわたるこの物語は、まさにブルゴーニュという大地が持つ多面性と進化の象徴といえるでしょう。
Domaine Arthur Gras - それは、伝統と革新が出会う場所。父から受け継いだルーツを胸に、新しいブルゴーニュの風を吹き込む若き造り手の挑戦は、今、世界中のワインラヴァーの注目を集めています。