Château Cos d'Estournel
シャトー・コス・デストゥルネル
【東洋の夢を纏う、サンテステフの宮殿 】
ボルドー、メドックを北へ北へと進み、ポイヤックとの境界に立ったとき、目に飛び込んでくるのは尖塔を戴くパゴダ(仏塔)の連なりです。ここはフランス。それなのになぜ東洋の宮殿がそびえ立つのか。答えは、200年前にこの地を築いた一人の男の夢の中にあります。
Château Cos d'Estournel(シャトー・コス・デストゥルネル)の創設者、ルイ・ガスパール・デストゥルネル。1811年、彼はこの丘に畑を拓きました。その革新性は当時のボルドーでは異端とも言えるもので、ネゴシアンを介さず自らのシャトーで瓶詰めし、顧客へ直接届けるという先進的な手法を採ったのです。彼のワインはやがてインドやアラビアの王侯貴族の食卓を魅了し、その大部分が東方へと船で運ばれてゆきました。東洋への深い憧れを抱いた彼は、遠い異国の意匠をこの地に持ち込み、パゴダと彫刻を配した唯一無二のシャトーを築き上げます。「サンテステフのマハラジャ」——人々は敬意を込めて彼をそう呼びました。今も門前に佇む象の像が、その物語を静かに語り続けています。
畑はポイヤックとの境界に広がる91ヘクタール。近隣に比べて粘土が少なく小石の多い土壌が、水はけの良さと熱の蓄積をもたらし、ブドウに深い凝縮感を与えます。大西洋の冷涼な風が果実の熟成をゆっくりと進めるため、メドックでも収穫は遅く、その分だけ複雑さと気品が磨かれてゆくのです。平均樹齢は35年、中には100年を超えるメルロの古樹も残されています。
2000年、スイスの実業家ミシェル・レイビエがこのシャトーを受け継ぐと、最先端の重力式醸造設備が導入され、品質は新たな次元へと飛躍しました。2009年ヴィンテージがロバート・パーカーから満点となる100点を獲得したことは、その象徴といえるでしょう。
グラスに注げば、深く沈む紫紅色から、カシスやブラックベリー、スパイス、そして東洋の香木を思わせる妖艶な芳香が立ちのぼります。緻密で滑らかなタンニンと張りつめた酸が織りなす構造は、格付第2級ながら「スーパーセカンド」の名にふさわしい風格。ぜひ一度、この宮殿が紡ぐ物語を、グラスの中で旅してみてください。