近年、世間では持続可能性、SDGs、有機農法、オーガニック、ビオディナミ、ヴァンナチュール、ナチュラルワインなど、自然や環境への配慮を重視したワインに関する用語をよく耳にします。
実際、様々なロゴがラベルに刻印されているワインをよく目にすることが多いのではないでしょうか?
しかし、それぞれのロゴが表す内容にはどのような違いがあるのか、明確に理解している方はほとんどいらっしゃらないのではないかと思います。
そこでこちらでは、多数ある有機認証の違いについて解説してゆきます。
農法の違いについて
まず認証機関の違いについて知る前に、オーガニックワインに使用するブドウを栽培する方法を知っておきましょう。
これらの農法の違いを理解していることが、有機認証機関の違いを知るための前提条件となります。
細かな規定につきましては各認証機関の項で触れますが、こちらではまずそれぞれの用語を概念として押さえておいてください。
リュット・レゾネ - 減農薬農法
基本的には化学肥料や農薬などを使わずに栽培し、病虫害にかかった時など必要な時にだけ必要最低限の農薬や化学肥料を使用する減農薬農法のことを、リュット・レゾネ(=合理的な対応という意味のフランス語)といいます。
リュット・レゾネ農法には農薬の使用量について明確な定義がなく、また認証団体もないため、使う農薬の量に関しては、農家の良心を信じるしかないというのが現状です。
オーガニックにしたくても、シャンパーニュやシャブリ地方などの厳しい環境では年によって農薬を使わなくてはならなくなることもあります。
そういった地域ではリュット・レゾネ農法を使ってブドウが造られています。
ビオロジック - 有機農法
有機農法とも呼ばれるビオロジック農法。
リュット・レゾネ農法とは違い、化学肥料や除草剤、農薬などは使用できないので、動物のフンなどを肥料として使ってブドウを育てています。
ただし、ボルドー液という病気予防のための伝統的な農薬だけは例外として使って良いとされています。
収穫は機械を使わず、手摘みで行われます。
機械は重量があるので土壌に負担をかけすぎてしまったり、また機会収穫ではブドウを傷つけてしまう可能性が大きいですが、手摘みによってそのリスクを回避できます。
ビオディナミ(バイオダイナミック)農法
化学肥料、除草剤、農薬を使用しないという基本的な点においては、ビオロジックと同様です。
ビオロジック以上に厳格な点としては、ルドルフ・シュタイナーというオーストラリアの哲学者が提唱した理論に基づき、栽培するうえで天体や宇宙の力も活用するということが挙げられます。
具体的には、月や星座の動きによって、肥料の散布やブドウの収穫の日程を決めるというところにあります。
世界一高価なことで有名なロマネ・コンティに使うブドウを造る際には、このビオディナミ農法が採用されています。
農産物など生産活動に関する認証
農法の違いを理解したところで、ここからいよいよ認証機関の違いについて記してゆきます。
認証機関の違いについては大きく2つあり、
①生産活動に関する認証
②ワインの醸造と栽培に関する認証
が挙げられます。
それでは、生産活動に関する認証です。
HVE(環境価値重視認証)
HVE認証(「高い環境価値」意味)はブドウの栽培からボトル詰めまで、適切なアプローチを採用することを選択したフランス国内の農業従事者/ブドウ栽培者に与えられます。
環境認証は、生物多様性の保全、植物防疫戦略、施肥管理、水資源対策の4つの分野について規定を順守した農業従事者に与えられるもので、3段階のレベルがあります。
環境認証は、「生物多様性の保全」、「植物防疫戦略」、「施肥管理」、「水資源対策」の4つの分野について規定を順守した農業従事者に、与えられるもので、3段階のレベルがあります。
中でも、HVE 「=Haute Valeur Environnementale(環境価値重視認証)」は農業事業者を対象とした環境認証では最高レベルの認証です。
レベル1:現状の把握 –ブドウ栽培者が「持続可能な」栽培に関する基本的な知識を持つことを意味します。
レベル2:定められた項目を遵守 – 4分野16の基準を遵守している。
レベル3:定められた指標を達成 – 生物多様性の尊重、害虫対策、肥料および灌漑の騒音管理といった指標を基にしています。
2023年1月から一部改訂され、全般的に厳しくなり、ぶどう栽培農家には、懸念が広がっています。
特にボルドーにおいてはAOC(原産地呼称統制)の条件としてHVE取得を絶対条件にしようとしていましたが、厳格すぎるが故に頓挫してしまいました。
EUオーガニック認証(ユーロリーフ認証)
EUの有機農業規則に従って生産された農産物であることを証明するマークです。
栽培から消費に至るまでの全ての過程において、EUの規定に則った周期的な検査を受けることが必要で、加工品においては原料の95%以上がオーガニックであることを証明するものです。
ワインにおいては、直近の最低3年間、合成化学薬品を使わないことを求められます。
セパージュが取り扱うワイナリー:Domaine de Cébène, Domaine Deneufbourg, Domaine le Roc des Anges, Domaine le Conte des Floris
AB認証(エービー認証)
フランス農務省による認証のマークです。
ABマークのABとは「Agriculture Biologique」の略で、「有機農業」を意味します。
オーガニック原料を95%以上含むこと、EU圏内で生産あるいは、加工されたものに限るなど、厳しい基準を設け、1年ごとの抜き打ち検査も行われます。
有機農法の規定としてはユーロリーフと同水準ですが、ユーロリーフはラベルへの掲載が必須であるのに対し、ABでは任意となっています。
ワインにおけるSO2(亜硫酸塩)の含有量は、赤160mg/L以下、白とロゼが200mg/L以下、甘口ワインが400mg/L以下と規定されています。
セパージュが取り扱うワイナリー:Domaine Combel La Serre, Domaine Alain Chabanon, Domaine Berthollier, La Nouvelle Donne, Domaine des Soulanes, Domaine les Ondines, Domaine Saint Damien
ECOCERT(エコセール / エコサート)
フランスのトゥールーズを本部として世界各地に23の支社を置き、80を超える国で有機認証をしている世界最大の国際有機認証機関。日本にも支社が置かれています。
5年以上化学農薬、化学肥料を使用していない、圃場で栽培されたものだけが認められ、年に1回土壌検査・残留農薬検査など厳しい審査・検査が行われます。
ワインにおけるSO2(亜硫酸塩)の含有量は、赤100mg/L以下、白とロゼが150mg/L以下と規定されています。
Demeter(デメター / デメテール)
ドイツのオーガニック認定機関。
Biodynamic Agriculture(ビオディナミ / バイオダイナミック農法)により生産された農作物、厳しい基準に則して加工された製品にのみ、認証マークをつけることが認められています。
どの有機認証制度よりもより厳しい基準となっており、欧米ではこの認証を受けた農産物は、高い実績が認められ、高品質であると信頼を得ており、一種のステータスシンボルであると考えられています。
セパージュが取り扱うワイナリー:Domaines Goisot, Domaine Olivier Pithon, Mas d'Espanet, Domaine de l'Oustal Blanc, Domaine Danjou Banessy, Domaine le Soula, Domaine Tribouley, Château Couronneau
ワインの醸造と栽培に関する認証
求められる仕様がブドウ栽培やワイン製造に特化しるのが、以下の認証です。
生産活動全般に対する認証に比べ知名度では劣ることが多いですが、ワインの官能試験があったり、有名生産者が認証されているなど、見逃せない点があるので、ワイン愛好家にとっては重要ではないでしょうか。
Terra Vitis(テラ・ヴィティス)
1998年にボージョレで設立された、ブドウ栽培者と醸造者たちから始まった全フランス規模の団体。
100%ブドウ栽培に特化したです。
しかしながら環境保全、社会的責任、経済的持続性といったブドウやワインに関する内容だけではない三つの柱とした仕様があり、遵守することによって、生産者とワインに対する認証を出します。
ワインのみならず、企業の社会的責任までカバーしているのが特徴です。
Biodyvin(ビオディヴァン)
1995年にフランスで設立されたビオディナミ農法を実践する団体による認証。
テラ・ヴィティスほど細かい仕様は求められていませんが、認証取得要件にワインの試飲を求められるのが特徴です。
DRC、ドメーヌ・ルフレーヴといった超一流ワイナリーが加盟しており、近年加盟する生産者が増加している。
Vin Méthode Nature(ヴァン・メトード・ナチュール)
ナチュラルワイン(ヴァンナチュール)は、「人為的介入を(極力)しないワイン」という概念的規定はありましたが、ナチュラル(自然派)やビオの基準が曖昧なものも数多く存在するため、ヴァン・ナチュール保護組合が独自に基準を設け、基準を満たすワインに認証マークを付けるようにしました。
消費者に「どんなワインが自然派に当てはまるのか」を一目で分かりやすくするのが狙いです。
- AB(アグリカルチャービオロジック)等、認定された有機栽培の葡萄を使用する。
- 葡萄を手積みで厳選して収穫する。
- 製造地域由来の野生酵母を使用して製造する基準に従う。
というのが大枠です。
認証マークは二つデザインがあり、ラベルの右下にある文言で区別されています。一つは亜硫酸(SO2)を一切添加していないワイン(sans sulfites ajoutésと表記)、もう一つは亜硫酸を最大30 mg/Lまで添加されているワイン(< 30 mg/l de sulfites ajoutésと表記)です。
ただし、亜硫酸添加が許されるのはワインの発酵が完全に終わってから、瓶詰や樽詰めの時にだけ使用する事と限定されています。
おわりに
このように有機認証はそれぞれ程度の差こそあれ、少なくともブドウそれ自体が有機で栽培されていることを証明しているものです。
ただ、実際にはビオロジックでブドウを栽培してはいるものの、認証は取得していないという生産者も少なからずおります。
ですので、認証があること自体が環境に配慮し、また美味しいワインであることの絶対条件ではなく、一つの目安として参考程度に気にするのが良いと思います。