Château Pédesclaux
シャトー・ペデスクロー
【眠れる5級、ふたたび。— ガラスの城が起こす、ポイヤックの静かな革命】
1810年、ボルドーのワイン仲買人ピエール・ユルバン・ペデスクローが自らの名を冠して興したシャトー・ペデスクロー。1855年のメドック格付けでは見事第5級に列せられながら、その後の長い歳月のなかで所有者は転々とし、いつしか「知る人ぞ知る格付けシャトー」として静かに眠りについていました。
その眠りを覚ましたのが、2009年に当主となったジャッキー・ロレンゼッティです。彼がまず手をつけたのは、畑でした。取得時わずか26haだったブドウ畑は、ラフィットとムートンの背後に広がる台地の区画、ポンテ・カネに隣接するカベルネ・ソーヴィニヨン主体の畑などを次々と加え、現在では約52haへと倍増。2011年には100か所におよぶ土壌断面調査を行い、19種類もの土壌タイプを特定しました。ガロンヌ川が運んだ砂利と小石、その下に横たわる粘土と石灰岩——ポイヤックが銘醸地たる所以を、一区画ずつ科学の目で読み解いていったのです。
そして2014年、シャトーの姿そのものが変わります。世界的建築家ジャン=ミシェル・ヴィルモットが手がけた新醸造施設は、19世紀の古い建物をガラスの箱がそっと包み込むという大胆な設計。ポンプを使わずブドウの重みだけで果汁を運ぶ重力式(グラビティ・フロー)を採用し、果実のアロマを損なうことなく、区画ごとの個性をそのまま瓶へと導きます。醸造の舵を取るのは技術責任者ヴァンサン・バシュ=ガブリエルセン、2013年からは名醸造家エリック・ボワスノがコンサルタントとして加わりました。
畑では2022年にオーガニック認証を取得し、一部の区画ではビオディナミも実践。カベルネ・ソーヴィニヨンの比率は当初の46%から63%へと高まり、ポイヤックらしい凛とした骨格はいっそう鮮明になりました。新樽50%で14〜16か月熟成されたワインは、凝縮したカシスと黒鉛のニュアンス、緻密なタンニンに包まれた清らかな余韻を描きます。年間生産量はおよそ9,000ケース。若木の区画を中心に仕立てられるセカンドワイン「フルール・ド・ペデスクロー」も、メルロの丸みが心地よく、より早い段階からシャトーの気品に触れられる一本です。